札幌市のパーソナルトレーニングジム スタイルメソッドの古本 直也(フルモト ナオヤ)です。

たいていの場合、トレーニング中は呼吸をするよう指示されます(厳密には動作中)。

種目によって異なる時もあるのですが、力を抜く際に息を吸い、力を入れる際に吐くのが一般的です。

スクワットを例に挙げると、しゃがむ局面で息を吸い、立ち上がる局面で吐く流れになります。

※説明をよりわかりやすくするため、ここでは「力を抜く=しゃがむ」「力を入れる=立ち上がる」という表現を使っていますが、実際はどちらの局面も力が入っています。

一方で、トレーニング中に呼吸を止めるよう指示されることはあまりありません。

今日は「筋トレで息はするべき?それとも止めるべき?」というテーマで記事を書いていきます。

当ジムの指導方針

先ほど「トレーニング中は呼吸をするのが一般的。止めるよう指示されることはあまりない」とやんわりお伝えしましたが「トレーニング中は呼吸を必ずしましょう。止めるのは絶対にNG」と言われることも多々あります。

では、なぜこのようなセリフが多くの場面で使われているのかというと、血圧の上昇がその理由です。

「トレーニング中に呼吸を止めると、血圧が上昇して血管系に過度な負担がかかる。危険だ。でも、呼吸をすることで血圧の上昇は抑えられ、疾患のリスクを下げることができる」という理屈です。

しかし、当ジムでは高血圧による動脈硬化など、血管機能に何らかの症状がある方以外に関しては、基本的にトレーニング中は呼吸を止めるよう指示しています。

スクワットを例に挙げると、スタートポジションで吸い→止め→しゃがむ→立ち上がる→吐く、こんな感じの流れです。

トレーニングで血圧を上昇させる要因について

呼吸の有無

まず、トレーニング中に呼吸を止めると、確かに血圧は上昇します。

しかし、ここで重要なのは「呼吸を止めた」ことだけが原因ではなく「そもそもトレーニングそれ自体でも血圧は上昇する」という事実です。

言い換えるのであれば、呼吸の有無に関係なく、筋肉に負荷を加え力を入れた時点で血圧は上昇します(1)。

もっとも、トレーニング中に呼吸をした場合と止めた場合では、した方が血圧の上昇は〜10%ほど抑えられていますので、

・トレーニング中に呼吸をすると、血圧の上昇はやや抑えられる。
・トレーニング中に呼吸を止めると、血圧はやや上昇しやすい。

とまとめることができるでしょう。

種目・強度・レップ数・セット数

先ほど、呼吸の有無はトレーニング時の血圧に影響を及ぼすと記載しました。

しかし、トレーニングにおける血圧の上昇度合いに関与する要因は、何も呼吸の有無だけではありません。

例えば(2)では、レッグプレスやアームカールなどの代表的なエクササイズを実施し、その際の血圧を調べています。

結果、血圧はレッグプレス>アームカールの順でより上昇することがわかりました。

また(3)では、最大握力の10%・30%・50%の強度で、2分間の持続的な把握動作を実施し、その際の血圧を調べています。

結果、血圧は最大握力の50%の強度でより上昇することがわかりました。

さらに(4)(5)では、トレーニングにおけるレップ数やセット数が血圧にどのような影響を及ぼすのかを調べているのですが、レップ数もセット数も繰り返すほど上昇する傾向が確認されています。

つまり、トレーニング時の血圧は呼吸の有無をはじめ、種目・強度・レップ数・セット数など様々な要因が複雑に絡み合ったうえで決定されるということです。

そのため「トレーニング中に呼吸を止めると、血圧が上昇して血管系に過度な負担がかかる。危険だ」と言い切るのは少し早い気がします。

そもそもトレーニングそれ自体でも血圧は上昇しますし、種目・強度・レップ数・セット数など様々な要因が複雑に絡み合ったうえで、トレーニング時の血圧は決定されるためです。

トレーニング中に呼吸を止めるデメリット・メリット

トレーニング中に呼吸を止めると、血圧はやや上昇しやすくなるというデメリットがありますので、高血圧による動脈硬化など、血管機能に何らかの症状がある方に関しては、トレーニング中の呼吸は積極的にした方が良いでしょう。

最大限気を払うべきかと思います。

一方で、トレーニング中に呼吸を止めるメリットはあるのか?というと「フォームの安定による怪我の予防」が挙げられます。

例えば、スクワットをはじめとした脊柱の長軸方向に対して負荷のかかるエクササイズでは、巷でいうところの「体幹」の剛性がかなり重要です。

体幹の剛性が低いと、(バーベルの負荷で)背骨の綺麗なS字カーブが乱れ、フォームが崩れ、腰部の傷害を引き起こすリスクが高まるためです。

では、どうすれば体幹の剛性を高めることができるのかというと「腹圧」=「お腹に生じる圧力」が鍵になります。

腹圧を高めることで、体幹の剛性も高まり、背骨の綺麗なS字カーブが保たれ、フォームが安定し、腰部の傷害を引き起こすリスクを下げることが可能です。

そして、この腹圧は息を吸い止める、つまり「いきむ」ことによって高まることが確認されています(6)。

まとめると、スクワットをはじめとした脊柱の長軸方向に対して負荷のかかるエクササイズでは、トレーニング中に呼吸を止めることで、

①腹圧が高まる
②体幹の剛性が高まる
③背骨の綺麗なS字カーブが保たれる
④フォームが安定する
⑤腰部の傷害を引き起こすリスクを下げる=怪我の予防に繋がる

というメリットが得られます。

このメリットは、かなり大きなものだと個人的に認識しており、そのような理由から、冒頭で「高血圧による動脈硬化など、血管機能に何らかの症状がある方以外に関しては、基本的にトレーニング中は呼吸を止めるよう指示しています」と記載したわけです。

最後に

繰り返しになりますが、当ジムでは基本的にトレーニング中は呼吸を止めるよう指示しています。

しかし、例えば頭痛をお持ちであったり、一連の動作に不安のある方に対しては、責任を持って臨機応変に対応しています。

ただ、最後に1つ強調させていただくならば「トレーニング中に呼吸を止めることは必ずしも悪ではない」ということを覚えていただければ幸いです。

 

<参考文献>

(1)Effect of breathing techniques on blood pressure response to resistance exercise

(2)Arterial blood pressure response to heavy resistance exercise

(3)負荷強度の異なる持続的な把握動作が血圧応答に及ぼす影響

(4)高強度レジスタンスエクササイズ前後の心拍数、収縮期血圧、自律神経活動

(5)Resistance exercise and acute blood pressure responses

(6)The effects of breath control on intra-abdominal pressure during lifting tasks