札幌市のパーソナルトレーニングジム スタイルメソッドの古本 直也(フルモト ナオヤ)です。
基本的に、筋トレをはじめとした強度の高い運動の前には、ウォームアップの実施が推奨されています。
軽めのジョギングからスタートして、そのあとは筋肉をゆっくり伸ばすストレッチをして〜、みたいな流れです。
皆様も、一度はご経験があるのではないかと思います。
しかし、近年では、筋トレ前に「筋肉をゆっくり伸ばすストレッチをして」←この部分に関しては、否定的な見解が目立つようになってきました。
今回は、筋トレ前のストレッチについて記事を書いていきたいと思います。
ストレッチとは?
ストレッチとは「柔軟性を高め、関節可動域の拡大を目的として実施される、筋肉を伸ばす運動」を指します。
ストレッチは、ざっくり2種類に分類することができ、それが「静的ストレッチ」と「動的ストレッチ」です。
静的ストレッチは「スタティックストレッチ」とも呼ばれ、通常30秒前後の間、深呼吸をしながらゆっくり筋肉を伸ばす方法、動的ストレッチは「ダイナミックストレッチ」とも呼ばれ、ラジオ体操のように、若干の反動や勢いをつけながらグイッグイッと筋肉を伸ばす方法になります。
一般的に「ストレッチ」というと、前者の静的ストレッチを意味することが圧倒的に多い印象です。
冒頭で『近年では、筋トレ前に「筋肉をゆっくり伸ばすストレッチをして」←この部分に関しては、否定的な見解が目立つようになってきました』と記載しましたが、これは静的ストレッチのことになります。
では、なぜ今現在、筋トレ前の静的ストレッチは推奨されていないのでしょうか?
その理由は、ズバリ筋トレの効果を落とす可能性があるからです。
筋トレ前の静的ストレッチが推奨されていない理由
まず、筋トレをはじめとした強度の高い運動の前には、関節可動域を拡大=柔軟性を高めておくことがオススメされています。
関節可動域の拡大は、筋トレの効果増大に繋がると考えられており、例えばスクワットなんかを挙げると、深くしゃがむグループは浅くしゃがむグループに比べて、内転筋群や大臀筋が有意に肥大したとの報告があるほどです(1)。
身体の硬い人がいたとして、たいしたウォームアップを実施せずにスクワットを行うと、その硬さゆえにしゃがみが浅くなってしまい、筋トレの効果が落ちてしまうかもしれません。
また、筋トレでは、スクワットに限らず全ての種目において「適切なフォーム」が大切になるわけですが、身体が硬いままだとフォームが乱れてしまい、怪我のリスクが高くなる危険性もあるでしょう。
このような理由から、筋トレ前には、関節可動域を拡大させておくことがオススメされているわけです。
では、どうすれば関節可動域を拡大させることができるのかというと、その有効な手段の1つに静的ストレッチがあります。
「静的ストレッチを実施すれば関節可動域が拡大され、筋トレの効果増大に繋がったり、怪我のリスクを低くすることもできるだろう」こんな感じです。
しかし、実は静的ストレッチには「筋力の低下」というデメリットを引き起こすことが確認されています。
例えば(2)では、足関節を対象に、静的・動的ストレッチを実施した後で、筋力がどのように変化するのか?を調べているのですが、動的ストレッチでは増加したのに対し、静的ストレッチでは低下したとのことです。
関節可動域が拡大されたとしても、筋力が低下しては扱う重量が下がってしまい、筋トレの効果が落ちてしまう可能性が考えられます。
そして実際(3)では、筋トレ前の静的ストレッチが、大腿四頭筋の肥大にどのような影響を与えるのか?を10週間に渡り調べているのですが、結果は
筋トレ前に静的ストレッチグループ:7.4 ± 3.7%増加
筋トレだけグループ:12.7 ± 7.2%増加
でした。
こんな報告もあって、今現在、筋トレ前の静的ストレッチは推奨されていないわけです。
一方で、筋トレ前のウォームアップとしては、動的ストレッチが推奨されるようになってきました。
動的ストレッチは、静的ストレッチと同等に関節可動域を拡大させることができますし、その後の筋力の低下も起こらないため、筋トレの効果が落ちてしまう心配もなくなるとの理由です。
筋トレ前に静的ストレッチを実施してはダメなのか?
ここまでを簡単にまとめると
「筋トレ前に静的ストレッチを実施すると、関節可動域は拡大されるけど、筋力が低下して扱う重量が下がり、効果が落ちてしまう可能性が考えられる。それなら、筋トレ前には、動的ストレッチを実施した方が良いんじゃないだろうか。筋力の低下を引き起こさずに、関節可動域を拡大させることができる。こっちの方が、筋トレの効果を高められるはずだ」
となります。
このようなお話をすると「筋トレ前の静的ストレッチはダメ!」と捉えられる人もいらっしゃるかと思いますが、個人的にはそう考えていません。
確かに、静的ストレッチは、筋力の低下を引き起こすに間違いはないでしょう(秒数も関係してはいますが)。
しかし、静的ストレッチにおける筋力の低下は、10分後には回復するとの報告もあります(4)。
つまり、筋トレ前に静的ストレッチを実施したとしても
静的ストレッチ→軽めのジョギング→筋トレ
このような順序では、筋トレの効果が落ちてしまう心配は限りなく0に近づくはずです。
また、経験論ではありますが、関節に若干の痛みや違和感がある場合なんかは、動的ストレッチではなく、入念ではあるものの静的ストレッチを実施することによって、一切の不安なく筋トレに取り組むことができるという人も周りに多くいらっしゃいました。
そのため、利点を感じられるのであれば、たとえ筋トレ前だとしても、静的ストレッチを実施して何ら問題はないかと考えています。
最後に
当ジムでは、時間効率の関係から、脚をブンブンしたり腕をグルグルしたりと、基本的には動的ストレッチを筋トレ前に実施しています。
しかし、状況によっては、たとえ筋トレ前だとしても、静的ストレッチを取り入れることもあります。
0か100かになるのではなく、臨機応変に対応していただければ幸いです。
<参考文献>
(1)Effects of squat training with different depths on lower limb muscle volumes
(2)静的および動的ストレッチング後に生じる 足関節可動域と筋力の経時的変化
(3)Effect of the flexibility training performed immediately before resistance training on muscle hypertrophy, maximum strength and flexibility
(4)Stretching-induced deficit of maximal isometric torque is restored within 10 minutes
スポーツ現場におけるストレッチングの処方について